『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』鳥羽 博道 ・著 『BEAMS戦略』川島蓉子・著

久々の書評。
しかも柄にもなくビジネス本。

不況な最中にビジネス本。

ドトールコーヒービームスと言えば今や知らない人はいないほどの知名度を持つ企業、ブランドとなっている。そんな異なる業種の創業から現在までを記した2冊。

まず、お恥ずかしながらボクは最近までドトールビームス外資と思っていた。勿論両社ともに純国産の企業である。ドトールの方は社長である鳥羽博道氏の、ビームスの方はファッションマーケティングのプロ川島蓉子氏の著述。



ボクは松下幸之助モノが好きで今までに何冊か読んだ事があるが、やはり鳥羽さんの経営哲学の根源には松下幸之助がある。 本作でも随所に松下幸之助の名前が出てくる。それと言うのも鳥羽さん自身のバックグラウンドに松下幸之助氏と似た部分を感じるからだろう。若い頃大変苦労されたようだ。松下幸之助と言えば9歳の頃和歌山から大阪の自転車屋さんへ丁稚奉公へ出て、病気がちであったが身を粉にして働き天才的な発想力と経営力で松下電器を日本トップの企業へ成長させた。鳥羽さんは家庭の経済的な問題で高校を中退、その後コーヒー豆の営業など経験。仕事上のある経緯からコーヒーの勉強でブラジル修行へ行くこととなる。そして帰国後、自らドトールコーヒーを立ち上げるが人に騙され大きな借金を作ってしまったり、多くの困難にぶつかる。しかし、鳥羽さんが決して曲げなかったのは懸命に働きお客さんに良いコーヒーを提供すると言う事だった。良いものを提供するためには大きな投資も惜しまない。まさに正攻法をいく経営者、手間暇かけて真面目に真剣に取り組む事が大前提であると言うスタンスは、何事にも最短距離、効率性を求める現代社会において改めて重要な事だと気付かされる。企業と言うものは利益追求だけではなく、社会貢献と言う意識があるかないかで随分と違った組織になるものなのではないかと思う。この一冊でドトールのイメージは「真面目」なものになった。



ビームスアロウズ、シップスと並んで長く日本のセレクトショップを牽引してきたアパレル企業である。社長である設楽洋氏の感性が打ち出されたトップダウンなショップなのだろうと思いきや、かなり若い社員などの意見を汲み取る自由な社風だ。そして忘れてならないのがカリスマバイヤー南馬越一義氏の存在。やはりセレクトショップと言うのはバイヤーの力なくしては語れないのだろう。ボクはファッション業界と言うか、ファッションのこと自体にやや疎いためよく分かっていなかったのだが、本書を読んでバイヤーという存在の大きさを改めて感じさせられた。そのバイヤーの嗅覚、先見の眼たるや凄まじいものである。世の中の空気を読み取り、今誰がどう言うものを欲しているのかを察知するのである。当然その嗅覚はファッション界だけでは養われないものだ。常に触覚を立てて世間の動向を敏感に察知する力を養う事はいかなるメーカーにおいても必要不可欠なことなのだろう。利便性、機能性だけに近視眼的になり過ぎてその他の重要な要素を見誤ってしまう事、その逆でデザインに固執してしまう事も企業にとって命取りになりかねない重要な問題だ。凡庸なだけでもよろしくないので、やはりそのあたりバランス感覚が必要なのだろう。そしてビームスはタチ位置が分かっている。決してメジャーにはならない、でもマニアックでないという点に気を使っているという。メジャーになると言う事はそれだけ持つ人間も多くなる。そうならないギリギリのラインをアロウズ等と争っているのだろう。ユニクロとギャルソンの間では様々なブランド・ショップが自分のタチ位置を求めてひしめき合っているのだ。




ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』(日経ビジネス人文庫)

鳥羽 博道 (著)

★★★★★

BEAMS戦略』(日経ビジネス人文庫)

川島蓉子 (著)

★★★★☆