『真夜中の五分前 side-A side-B』 本多孝好・著

本多孝好氏の数少ない長編小説。


直木賞最終候補まで残ったらしい本書であるが、一言で言えば村上春樹、3部作〜ノルウェイの森あたりの村上春樹そっくり。ただ、僕は所謂春樹チルドレンと呼ばれる作家のものが嫌いではないので本多氏の作品含め好き嫌いなく読むほうであると思うが、これは誰が書いたか言わなければ本当に村上春樹本人が書いたと間違いそうなほど、作風、文体、キャラ設定などかなりの部分で似ている。内田ユキオと言うライカ使いのモノクロ写真家がいるのだが、その彼のフォトエッセイを衝動買いして読んだ事がある。写真の素晴らしさは言うに及ばず、カメラマンらしからぬ文章力に感心しつつも、さすがにファンであると公言して憚らない彼だけあって、その春樹度の高さとやや強めのナルシシズムに少々むずがゆい思いをした事があった。



同じく自ら村上春樹に影響を受けていると公言している本多氏の本作は内田氏に匹敵する高い春樹度を感じざるを得なかった。MissingであるとかFineDaysであるとか本多氏の他作品も何冊か読んでいるが、本作が断トツで春樹イズム全開だ。とは言え、内容は単なる恋愛小説にとどまらずミステリーな部分も感じさせるあたり、とりあえず面目躍如といったところか。



ただ、やはりこの本を読んで思ったが、村上春樹とは日本文学界のパットメセニーではないかと。彼を模倣したフレーズを使うとすぐばれる。それだけ癖が強い言う事なのだろう。その上、過去に起きた事で心に傷を持ち、社会を見透かしたようなテンションの低い主人公の男の彼女が死んでしまうなんて物語を書いてしまったら、まるで髪の毛をおばちゃんパーマにしてボーダーのシャツ着てAllTheThingsYouAreでメセニーのフレーズ連発してる様相だ。ちなみに村上春樹氏自身はクラシカルなジャズが好みらしくメセニー好きではないようであるが。



僕は古本屋で持っていない作品を見つけると必ず買ってしまう作家がいる。最近は直木賞『GO』やテレビドラマ『SP』で有名な金城一紀。実は金城氏と本多氏は大学時代の友人で、本多氏は金城氏のすすめで本を書くようになったらしい。そして、本多氏が認める同年代の作家は伊坂幸太郎。伊坂氏も本多氏の作品を評価しているらしい。三人とも作風違うけど、面白い。僕的には伊坂、金城、本多の順かな。くしくも僕の行くいくつかの古本屋では伊坂氏のものが圧倒的に少なく、本多氏の作品を一番よく見かける。



とりあえず、村上春樹ノルウェーの森へのオマージュと捉えて読もう。一卵性双生児とは、個・アイデンティティーとは、と言う部分で色々考えさせられる一冊(二冊か)。しかし、個人的には、あの量、内容で二冊に分ける必要はないと思った。エコの時代、紙やインクがもったいないので、新潮社さん、再版の際には是非一冊で。



『真夜中の五分前 side-A side-B』

新潮社 本多孝好・著

★★★☆☆